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13hw編集部 シリーズ特集 この国の“仕事選び”が変わりはじめている 第2弾 「進路指導」から「キャリア教育」へ~学校の新しい取り組み~


第1弾の記事の中でもご紹介したとおり、書籍「13歳のハローワーク」は、発売から2年で全国8000校以上の小・中・高等学校で教材や参考図書として採用されています。このような大きな反響を呼んだ背景には、近年、小・中・高等学校で「キャリア教育」を推進する動きが活発になっていることがあります。

では、キャリア教育とは何でしょうか?なぜ、今その取り組みが注目されるのか?
今回の特集では、子どもたちが通う学校現場でどのように「仕事選び」について教育を行っているのか、ホームページ上で公開されている実際の事例も交えてご紹介したいと思います。(13hw編集部)




(1)キャリア教育って何だろう?

「キャリア教育」イコール「進路指導」?

キャリア教育とは、望ましい職業観や職業に関する知識を身に付けさせ、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育のこと。
「キャリア教育」という用語は、1999年に公の文書に登場した新しい言葉。でも、実は、これと同じ意味の用語を今までも使っていました。さて、なんだかわかりますか?「進路指導」です。「キャリア教育」とは本来の「進路指導」と同じ意味を表した用語なのです。これまで「進路指導」というと、学業成績によって進路を「選択」することを重視した指導であったり、業者テストで出された偏差値を基にするなどして、中・高等学校の卒業前に集中的に行われる指導だったため、本来の意味からかけ離れた意味で用語が使われて、広く誤解されてきました。「進路指導」は、その誤解を解き、本来の姿を取り戻そうとして、「キャリア教育」という名称でリニューアルしたといえます。

「進路指導」から「キャリア教育」へ

子どもの「生きる力」を育てる

そもそも、なぜ子どもに「キャリア教育」が必要なのでしょうか?
当たり前のことですが、子どもは、いずれ親から自立し、自らの力で生きていく時期がきます。自立するためには、職業に就くなど、何らかの形で社会に対して貢献することが求められます。しかし、近年、若者の働くことへの関心・意欲などの未熟さ、コミュニケーション能力や基本的マナーなど社会人・職業人としての資質・能力の低下が指摘されています。キャリア教育は、進学や就職に焦点を絞らず、広く社会人・職業人として自立していくために必要な能力や態度を身に付けることを重視し、子どもの「生きる力」を育てることを目的としているのです。

9割の公立中学校、職場体験を実施

では、この動きは、いつごろから始まったのでしょうか?
1992年、埼玉県の竹内教育長(当時)が、「中学校進路指導における偏差値の不使用」を打ち出したのをきっかけに、全国の中学校で進路指導の改善が行われました。さらに兵庫県が1998年より公立中学校2年生の生徒全員が5日間の職場体験など、さまざまな体験活動を行う「トライやる・ウィーク」をはじめました。この活動が引き金になるなどして、2004年には全公立中学校の89.7%(文部科学省調べ)が職場体験を実施するなど、職業観を育てる現場教育が拡大しつつあります。
このように中学校では、少しずつですがキャリア教育が目に見える形になってきています。

(2)広がるキャリア教育とその一方で増える課題

広まる「キャリア教育」の推進指定地域

指定地域が拡大し、職業体験実施校が増加

最近、保育施設や飲食店などで職業体験中の中学生を見かけたことのある方も増えてきているのではないでしょうか?それだけキャリア教育の一環として行われる「職業体験」の授業はここ数年で全国に急速に広まりつつあります。
2003年6月、文部科学、厚生労働、経済産業及び経済財政政策担当の4大臣によって、「若者自立・挑戦プラン」が取りまとめられ、小学校の段階から発達段階に応じてキャリア教育を実施するという方針が打ち立てられました。その後も具体化策として、翌年より「新キャリア教育プラン推進事業」がスタート。全国で45地域のキャリア教育推進地域を指定されました。
さらに、2005年には、指定地域を61地域に拡大し、中学校を中心とした5日間以上の職場体験・インターンシップの実施を目指した「キャリア・スタート・ウィーク」を含む、 「キャリア教育実践プロジェクト」が開始。 そして、来年2006年には、指定地域が138地域に拡大し、職場体験を実施する中学校も4040校に広がるなど、ますますキャリア教育の輪が広がっています。

地域ぐるみの受入先開拓と、総合的カリキュラムをいかに組めるかが課題

しかし、キャリア教育の指定地域が増え、職場体験の実施校が増えてきたことで、課題も出ています。
ひとつは、受け入れ先(事業所、機関など)や、講師の確保が十分にできなかったり、学校同士の競合が課題となっている地域が出てきていることです。現状では、受け入れ先や講師等の開拓を各学校で行っている場合が多いのですが、体験活動をより円滑に実施・普及していくため、ハローワークや経済団体、PTA等の協力を得て協議会を組織するなど、地域全体のシステムづくりに努める地域も出始めています。
また一方で、数日間の職業体験がそのまま「キャリア教育」になると勘違いしている学校が多い、と警笛を鳴らす教育関係者もいます。
仕事を通した社会参加の感覚や充実感は、数日間の体験で簡単に味わうことは難しいでしょう。職業体験を通して子どもたちが本当の意味で職業観を身につけるためには、まずその基礎となる、社会に対する興味の喚起、仕事の世界観の育成などの別の教育も必要とされます。
今後は、職業体験だけでなく、総合的に授業を組み合わせ、どのように有効なカリキュラムを組むかが、もう一つの課題となってくるのではないでしょうか。

≪参考文献・参考サイト≫
「キャリア教育入門 その理論と実践のために」 実業之日本社 三村隆男著

(3)実際に授業を行っている学校を紹介しよう

では、実際にどんな取り組みが、学校で行われているのか?

今回は特に、インターネット上でその活動を分かりやすく公開している小中学校、高校のホームページをいくつかご紹介しながら、その具体的な取り組みをのぞいて見てみましょう。

小学校

千葉県 印西市立大森小学校

千葉県 印西市立大森小学校 編集部より

地元で開催されたゴルフトーナメント「サントリーオープン」を訪問し、トーナメントを支えるさまざまな職種スタッフの様子を見学、レポートしています。(13hw編集部)

学校より

今年は、5,6年生に本を読んでもらって、将来像を考えるという読書活動を取り入れました。核家族が増え、先人に生き方を学ぶ機会が減っている子どもたちに、自分なりの「生き方」を考えるためのさまざまな知識や支援を提供し続けることが学校の役割の一つだと考えています。(担当:松本先生)


佐賀県 唐津市立成和小学校 佐賀県 唐津市立成和小学校 編集部より

佐賀県のオンリーワン事業の一環で、5年生が、みかんのもぎりやかんしょ堀りなど、さまざまな農業体験をしたり、田んぼを借りて地域の方に教わりながら、年間を通じて稲作体験をしています。また、トヨタ自動車の協力で、ハイブリッドカーの仕組みや開発経緯などを学習するなど、児童が最新技術に触れる機会もつくられています。(13hw編集部)

学校より

農業体験は、JAや青年部のみなさんをはじめとする地域の方々の協力で、田んぼを借りたり、指導していただきながら、児童も楽しんで体験させてもらっています。今年から始めたハイブリットカーの学習はトヨタ自動車さんからゲスト講師をお呼びした試みで、職員も音のしない自動車にワクワクさせていただきました。(担当:栗本先生)

中学校

大分県 由布市立挟間中学校 大分県 由布市立挟間中学校 編集部より

病院、本屋、保育園などで職場体験し、生徒によるレポートと共に、受入先のコメントやホームページを読んだ人からのお便りも掲載されており、職場体験の具体的な様子を知ることができます。また、地域の身近な社会人の方々から仕事のお話を聞く職業講話の様子も報告されています。(13hw編集部)

学校より

3年生の職業体験も軌道に乗ってきたので、今年は生徒に自ら体験したい職場を探してもらい、自分でアポイントをとってもらう試みをしました。生徒のやる気が通じたのでしょうか、水族館「うみたまご」での体験アポがとれるという予想外の成果もあり、大成功でした。(担当:森山先生)


東京都 杉並区立和田中学校 東京都 杉並区立和田中学校 編集部より

生徒自身が一からホームページを創って運営し、とくに「和田中と地域を結ぶホームページ」では、生徒自らが取り組む校内改造のプロジェクトや、校外学習が写真とともにレポートされています。 また、藤原校長による3年生の総合学習「よのなか科」では、将来の社会参加について自ら考える場を提供するユニークな授業が行われています。(13hw編集部)

学校より

和田中では、キャリア教育において総合的にカリキュラムを組んでいる。
校外学習での酪農、農業体験の流れで4日間。アニメスタジオや保育園での5日間の職 業体験と、その前後に仕事の世界観を広げ、自分自身を理解する流れで10時間以上。
そして3年時の[よのなか]科で年30時間 である。
これらを相互に作用させることで初めて「やわらかい世界観」 がつくられる。
自宅での作業を含めれば3年間で100時間以上かけて いるだろう。 (藤原校長)

高等学校

兵庫県 兵庫県立赤穂高等学校 兵庫県 兵庫県立赤穂高等学校 編集部より

OB、OG の協力により、1年生から「社会人インタビュー」や「生き方を考える座談会」を実施するなど、働きがいや生きがいについての話を聞く授業を取り入れています。大学のオープンキャンパス参加体験(2年生)、企業見学(3年生)など自分の進路を具体的に疑似体験する前に、まず、OB・OGの話を聞き、自分の職業観・勤労観を育てる準備をする配慮がされているんですね。(13hw編集部)

学校より

「生き方を考える座談会」は、生徒20人程度の少人数で話を聞いたほうがより熱心になるだろうという校長先生の発案で始まった企画です。OB、OGを中心に講師を探し、生徒に自分の聞きたい 職業を選ばせています。講師探しは、興味を持ちそうな職種をピックアップして、 同窓会や地域の会合などで声をかけるなどしています。親の生き方もなかなか見えづらい 現代だからこそ、こういった授業を通じて、家庭で仕事の話をするきっかけになればと 考えています。(担当:信原先生)


千葉県 千葉県立東金商業高校 千葉県 千葉県立東金商業高校 編集部より

小学館スクウェア(株)と共同で、バーチャルモールを運理し、書籍やグッズの商品企画からPR、販売、売上管理を一貫して体験する、自律型学習をしています。 また、地域と連携した起業家育成の実践として、バーチャルモールを開設。30店舗が出展し、商品を販売するだけでなく、店舗から提供された商品にネーミングやパッケージデザインにも関わるなど、生徒による本格的な店舗運営を実践しています。(13hw編集部)
※本格運用は平成15年で終了、現在は期間限定で2店舗運用中

学校より

毎年、生徒が楽しめて、形に残り、大人の社会を垣間見れることをコンセプトに さまざまな体験学習に取り組んでいます。小学館スクウェアさんとの共同企画 は、1月には学校付近3市町の書店で委託販売されます。 生徒も最初は半信半疑だったようですが、小学館スクウェアから社長や社員の 方々に授業をしてもらい、実際に編集会議なども開き、あくまでも生徒が主導権 を握り、最初から最後まで手がけています。(担当:目時先生)

(4)こんなふうに活用してほしい「13歳のハローワークマップ」

世界地図みたいに、目に付くところに貼って眺めてほしい

このように中学校で広がりつつある職業体験を通じて、子どもたちは自分の将来について身近に考える機会を持つようになってきました。しかし、実際に子どもたちの知っている職業は、非常に限られています。
そんなときに活用してほしいのが、「13歳のハローワークマップ」です。書籍「13歳のハローワーク」に紹介された514の職種が、関連性の深い職業同士を近くに、ひと目で見られるように記載されています。
世界地図みたいに、子どもたちがなんとなく眺めることのできる、トイレや勉強部屋、教室などに張ることによって、様々な職業の名前に触れ、その関係性を考えたりしながら、 「よのなかにはたくさんの仕事・職業があること」を感じてもらうことが大切です。

杉並区和田中学校

前章でご紹介した杉並区和田中学校では、校内の生徒の目に付くいろいろな場所に「13歳のハローワークマップ」を貼っています。実は、和田中学校の生徒さんたちには、マップの企画をしていただいた藤原校長とともに、企画制作段階から一緒に参加してもらい、生徒たちの意見も反映しました。
たとえば、職業名のフォントには、大小をつけています。これは、中学生に身近な職業のフォントを大きくし、手前に見えるよう工夫することで、子どもが職業マップの世界に入りやすい演出です。

ぜひ、「13歳のハローワークマップ」をあなたの家や学校でも貼って、使ってみてください。

さあ、職業探しのたびに出よう!13歳のハローワークマップ

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この国の”仕事選びが変わりはじめている