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P.S.明日のための予習 13歳が20歳になるころには? IT[Information Technology]




4. おわりに(ITに希望はあるのか?)

4-1 ITに希望はあるか?

2つの対談を読めば明らかなように、ITの環境が整備されつつある現在、IT・インターネットを利用したビジネスは、明らかな変化を見せている。ITは、社会的インフラとして、よく道路にたとえられる。道路を造る過程では建設業に利益がもたらされるが、道路網ができてしまえば、その道路を使ってどういう事業が可能かということになり、道路を造るだけのビジネスは淘汰されていく。今や、IT・インターネットビジネスにおいては、その革新性・独創性が何よりも重要で、他人が成功しているからと、他人と同じことを始めても、もう市場は反応しない。

政府は、IT(他にバイオなども)に雇用の創出を求めているようだ。かつて高度成長のころ、新しい産業が次々に誕生し、大量の雇用を生み出した。たとえば造船だが、関連する材料・技術分野が非常に広く、多かった。船は何百、何千という材料、部品を組み合わせて建造される。造船業が拡大する過程では、設計者から、プレス工、板金工、機械工、溶接工、塗装工など、大量の技術者・労働者が必要だった。高度成長時代、たとえば溶接工は、工業高校を卒業し、比較的短期の研修を経て、すぐに造船などの現場に送られ、そこで腕を上げ熟練者になると、社会的・経済的に「成功者」になることが可能だった。そういった工業化時代の刷り込みが、ITに限らず、バイオやナノテクなど新産業に大量の雇用創出を求めるという時代錯誤を生んでいるのではないだろうか。

4-2 ITによる雇用創出という嘘

ITによる雇用創出という嘘

ITのメリットの1つは効率化だ。どんな職場でも、ITを導入すれば基本的に人員は削減される。今後、企業は、法務や会計・税務、宣伝、営業などを外部にまかせ、IT化をさらに進めることによって人件費や流通のコストを減らそうとするだろう。製造業は労働力の安いアジアに生産拠点を移しつつあるが、その傾向が変わることはないだろう。そういった経営は、非熟練の若年労働力を基本的に必要としない。つまり、たとえば造船業における溶接工のような労働者は減り続けるということだ。

13歳は、ITで大量の雇用創出、というような誤った情報にだまされてはいけない。ITがブームで、これからはITの時代らしいから、大勢の労働力が必要になり、自分はそういった企業に就職すればいいだろうというような、甘い夢を見てはいけない。それは、完成した高速道路の上で、行き交う車を見ながら、道路建設の働き口を探すようなものだ。いいことか悪いことかは別にして、より質の高い知識と技術がなければ労働者として働く場所がないという、ミもフタもない時代がすでに始まっている。それでは希望なんかないのか。そういう風に思ってはいけない。希望は、ITやインターネットに限らず、どこかの業界や、どこかの会社の内部にあるわけではない。希望は、きっと今よりも将来のほうが面白いし、楽しいと、自分で思うときに生まれる。好奇心を武器にして、興味の対象が見つかれば、希望の芽があなたの中に姿を現すだろう。13歳には、そのための時間が充分にある。

村上龍



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P.S.明日のための学習
13歳が20歳になるころには

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