著名人インタビュー この人に聞きたい!
桐谷美玲さん[女優]
1989年千葉県生まれ。
2005年、高校1年生のときにスカウトされる。2006年、映画『春の居場所』で女優デビューし、『君に届け』『ジーン・ワルツ』『うさぎドロップ』『荒川アンダーザブリッジ』『逆転裁判』など、多くの映画・テレビドラマに出演。『音楽人』で映画初主演、『女帝 薫子』(テレビ朝日)で連続ドラマ初主演を果たす。2012年、劇場版『名探偵コナン 11人目のストライカー』で声優(香田薫役)に挑戦。さらに、ニュース番組「NEWSZERO」(日本テレビ)のキャスターにも抜てきされ、新たな境地を拓く。
ドラマ『13歳のハローワーク』(テレビ朝日)では、バブル景気の最中、一流私立大学に通い、美しさと聡明さを武器に賢く振る舞うヒロイン・真野翔子役を熱演。
高校でラグビー部のマネージャーをし、どこにでもいる女子高生として、毎日を送っていた。
そんなある日、一本の電話が、人生をガラリと変える。本人さえ気づかなかった光を感じ取り、コンタクトを取ってきたその人物は、堀北真希や黒木メイサ擁するタレント事務所スウィートパワーのスカウトだった。
あれから6年、負けず嫌いと自らを評するその性格まで、スカウトは見抜いていたのか、いなかったのか。撮影現場で先輩女優たちから掛けてもらった温かい声と、家族や友達、モデル仲間たちの応援を支えに、一段ずつ階段をのぼり、映画やドラマで主演をつとめる女優へと成長を遂げた。
ドラマ「13歳のハローワーク」ではヒロイン・真野翔子を演じ、女優として、ますます存在感に磨きをかける桐谷美玲さんに、お話を伺った。
取材日:2012年3月/取材・文 野口啓一
● なぜ私を芸能事務所がスカウトしたのか、わからないままで終わらせたくはなかった。
一本の電話によって、普通の女子高生から女優・桐谷美玲へ。
――子どもの頃の桐谷さんは、どのような子でしたか?
【桐谷】小さい頃は、とても人見知りするタイプで、人と話すのが苦手でした。クラスでも目立たず、存在感の薄い子でしたね。
それが、小学5年生のとき、親の転勤で大阪に引っ越してから変わりました。街の活気とか、人の気質とか、大阪の水が合っていたのだと思います。自分の殻が破れて社交的な性格になり、周りに気持ちを表現することができるようになりました。
中学2年生になり、また以前住んでいた千葉に戻ったのですが、小学校時代の友達が「明るくなったね」とびっくりしたほどです。
――小中学校時代に、憧れていた職業はありますか?
【桐谷】漠然とですが、将来は保育士か薬剤師になりたいと思っていました。
保育士になりたいと思ったのは、幼稚園で先生が優しくしてくれたのがきっかけです。引っ込み思案だった私の手を引っ張って輪の中に入れてくれて、みんなでお歌を歌ったり、折り紙を折ったりしたのです。それがとても楽しくて、先生のようになりたいと思いました。
薬剤師は、母の影響です。母は薬剤師なのですが、私が病気にかかると、まるでお医者さんのように「この薬を飲みなさい」と指示してくれていました。また、用事があって母の勤め先に行くと、白衣姿でお客さんに薬の説明をしていました。そんな母をかっこいいと思っていて、それが薬剤師になりたいという気持ちにつながりました。
――女優のお仕事との出会いを教えてください。
【桐谷】高校1年の夏休みに、突然知らない人から電話があったのです。「スウィートパワー※ですけど、写真を撮らせてください」って。その日は朝から、「変な人から探されているから気をつけて」とか、写真付きで「この人に注意!」とか、そんなメールが友達から送られてきていました。えっ、どういうこと?と戸惑っていたところに、電話がかかってきたのです。
うちの事務所は、聞き込みで噂の人を探すスカウト方針で、どうやら私の友達の誰かに聞き込みをしたらしいのです。私は、メイクやファッションには興味がありましたが、テレビも雑誌も映画も観るものだと思っていて、芸能界は自分には縁のない世界だと思っていました。ましてや、私は都心から離れたところに住んでいたので、まさかそんなところまでスカウトが来るとは思ってもいませんでした。
※スウィートパワー…桐谷さんが所属している芸能事務所。
――この仕事をやってみようと決断された決め手は、何ですか?
【桐谷】実は、一度はお断りしたのです。母と一緒にスカウトの方に会い、「私をつけまわすのは、もうやめてください」って(笑)。それでも熱心に電話をしてきて、あるとき、「内山理名さんの撮影があるので、見学に来ませんか?」と誘ってもらったのです。それで、母と見学に行ったのですが、撮影がはじまると理名さんがキラキラと輝いて見えて、こんな素晴らしい世界があるのかと気持ちが傾いたのです。
その帰り道、もう一度、母と話し合いました。なぜ私に声を掛けてくれたのかは分からないけれど、分からないままで終わらせるより、挑戦してみてもいいのではないかという思いに母も賛成してくれて、そして父にも了解を得て、まずは1年だけやってみることにしたのです。
素敵な先輩たちとの出会いが恐怖感を解放し、撮影が楽しくなった。
――演技やポーズの取り方は、どのようにして覚えたのですか?
【桐谷】うちの事務所は、「仕事は現場で覚えなさい」という主義なのです。演技の勉強やモデルのレッスンは一切なく、撮影現場で他の役者さんの演技を見たり、教えていただいたりして、少しずつ覚えてきました。
当然、最初は何もできませんでした。映画やドラマの撮影のとき、画面に映ると思うとそれだけで緊張して、練習したことができないし、監督からは怒られていました。だから、台本をいただいて自分の台詞があると、そのシーンは画面に映るということなので、それが本当に嫌でした。撮影が怖くて、「どうして、私はここにいるんだろう」と、憂鬱(ゆううつ)な気持ちでいっぱいでした。
それでも、辞めたいとは一度も思わなかったですね。負けず嫌いな性格だからかもしれません。また、雑誌の撮影が楽しかったというのもあります。スタッフもモデル仲間も年齢が近く、もう一つの学校のような感じで、とても居心地がよかったのです。それで、気持ちのバランスが取れていたのだと思います。
――撮影の恐怖感を、どのようにして克服できたのですか?
【桐谷】『ジーン・ワルツ』という映画は、精神面でも演技面でも大きなブレイクスルーになりました。
このときは、浅丘ルリ子さん、風吹ジュンさん、南果歩さん、菅野美穂さんといった大先輩たちに囲まれ、とても緊張していました。そんな中、みなさんとても気を遣(つか)ってくださって。とくに撮影では、浅丘ルリ子さんと一緒のシーンが多かったのですが、その際、浅丘さんから「このシーンでは、こう言ったらうまくいくんじゃない」と、たくさんアドバイスをいただきました。それをリハーサルのときに試してみると、浅丘さんが、「今のよかったよ」と言ってくださったのです。それが本当に嬉しくて。
他にも、いろいろな先輩から声を掛けていただき、素敵な先輩がたくさんいるこの世界が素晴らしいと感動しました。同時に、「こんなに応援してもらっているのだから、私が頑張らなくてどうするんだ!」と、スイッチが入りました。以来、気持ちがとても前向きになり、撮影が楽しくなりました。
――女優のお仕事で、とくにどのようなところが楽しいですか?
【桐谷】自分とは別人として、時間を過ごせることです。プライベートでは、ゆるい性格と言われているのですが、いただく役は、勝気な子だったり、ツンデレだったり、金星人だったり、霊媒師だったりと、個性が強いものが多いのです。
そんな、普段ではあり得ない格好をして、本来の自分とは違う性格や、日常からかけ離れたキャラクターを疑似体験できるのは、楽しいです。
――将来の目標を教えてください。
【桐谷】今は、どんなことでも経験して、ステップアップしていきたいです。そして将来は、自分のスタイルを持った、かっこいい女性になりたいです。
具体的には、女優としては、一線で活躍するビジネスウーマン役から優しいお母さん役まで幅広くできるような演技力を身につけていきたいです。
モデルとしては、ファッションも生活スタイルも、自分らしさを表現できるような存在を目指しています。
そのためには、お休みの日にダラ~ンと過ごして一日を無駄にするのではなく、時間を有効に使って自分を磨いていきたいと思っています。
――中高生にメッセージをお願いします。
【桐谷】私の大学の友達は、さまざまな分野の授業を受けたり、色々なイベントや学校行事に参加したりすることで、何が自分に合っているのか、経験を通して見つけていました。そうして、英語が得意な友達は、海外に留学して外国の文化を学び、帰国して英語力を活かせる企業に就職しました。また、ファッションが好きな友達は、アパレル業界に進みました。
中高生のうちは、ある程度何をしても許される時期だと思います。だから、何かに興味を持ったら、とにかく行動することです。インターネットで調べることもできるので、たとえば料理をしてみたいと思ったら、レシピを検索して、お休みの日に作ることができますよね。そうして、実際に経験すると、次はもっとこうしようとか、次はこれもやりたいとか、さまざまなアイデアが浮かび、さらに楽しくなってくるはずです。だから、まずは何でもやってみることが大事だと思います。
- No.39 大九明子さん
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